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乾いた風が、鉄臭い埃を巻き上げていた。
鋼鉄の大地に突き刺さるようにそびえ立つビル群。
その中の一つ、黒く巨大な高層ビルの屋上で、二人の男が対峙していた。
俺ではない方の男は、風向きの定まらない乱暴な風に自身の象牙色の長い髪を遊ばせて佇んでいる。
顔立ちは神に愛されたのか左右のバランスが取れ美しく、双眸には冷たく暗い炎が灯って天性の美貌を一層引き立てていた。
男の右手には細身でしなやかに伸びた刀が一振り。左手はどす黒くくすんだ赤に染まっている。
その赤く染まった左手を、ゆっくりと誘うように揺らして男は無言で俺に剣を抜けと示した。
そんな状況に、重く沈みこむような絶望が、悲しみを伴って俺の胸に染み渡る。
どうしてこうなったのか、未だに理解できない。
現状を理解しようと過去を探っても、突きつけられた現実によって麻痺しかけている脳は動いてくれそうにない。
俺はどうやら今目の前に佇むかつての親友であり、また、良き相棒であった男と戦わなければならないらしい。
状況がそう指し示している。
逃げることなどできない。
万が一、俺が逃げたとしたらアイツも俺も救われないのだろう。
そして、これから始まる戦いは、確実にどちらか片方が幸せから遠ざかる羽目になる。
この戦いにおける俺の生存率は、限りなくゼロに近かった。この男を前にして、生き残れる気など少しもしない。
俺の心は奥底でこの戦闘を放棄したいと叫び、しかし理性がアイツを止めなければならないのだと使命感を刺激している。
避けられない不本意な戦いは、どうやっても回避することができない。
ごくり、と喉を鳴らし無理矢理乾いた唾を呑み込む。
お陰で喉が引き攣ったような痛みを訴えた。
決断しなければならない。
剣を抜くのか、それとも抜かずに殺されるのか、を。
それ以外の道を探そうと、麻痺した頭を動かしても、どうしてもその二つの答えに辿り着いてしまう。
もう少し、頭を使って生きればよかった……かな、などとくだらない後悔が一瞬過ぎったのを、自嘲することで吹き飛ばした。
俺の迷いを余所に、男はより一層口元に浮かべた笑みを濃くし、もう一度促すように左手を揺らした。
くそ。人の気も知らないで。
胸中で悪態をつき、悠然と構える男を睨みつける。
風に弄ばれた長い髪が、在りもしない翼を俺に幻視させた。
はっと息を呑んで初めて自分が長い間呼吸を止めていたことに気がついた。
深呼吸を、二回。息を吸って、吐いて、吸って、吐く。
覚悟を、決めようか。
その独り言を実行するために小さく頷いた俺は、背負っていた両手剣(トゥーハンドソード)を鞘から抜き、そして構えた。
そして、アイツが。
アイツの口元が。
無情な笑みで歪んだ光景が、勝手に俺の瞼に焼き付けられる。
その冷笑の中に、築き上げた過去の全てが崩れる音を、俺は絶望と共に聞いた。 |
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