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ディストアレンジ:07
 

「おー、ユウイじゃねぇか! 本部転属おめでとう」
「ザイ。……ああ、ありがとう」

  幾度目かの春。俺は廊下でばったりと知り合いに出くわした。
  小柄で、とてもじゃないが兵士向きとはいえない優しい容貌のそいつは、名前をユウイという。
  硬い髪質の髪を長く伸ばし、首の後ろで縛っていて、多くの兵士と同じようにクオンを真似ているのだという。
  俺はユウイとは同郷だが、幼馴染というわけではない。
  歳は、確か3つ程離れていて、大きくはないが小さくもない故郷の中では、擦れ違ったり学校で少し話すだけだった。
俺は、田舎臭い故郷を早く出て行きたかったから、15の時に家を出た為に『知り合い』程度の親しさしかない。
  ユウイについて知っていることといえば、人一倍『英雄クオン』に憧れて、その憧れだけでここまで来たということくらいだ。
  それ以外の、例えばユウイの実力だとか、精神の繊細さだとか逆に図太さだとか、好きなものは何で嫌いなものが何か、ということは全く知らない。
  だから、ユウイと話す時は大抵クオンの話になる。

「……何、クオン?」

挨拶もそこそこに、途端にそわそわと辺りを窺いだしたユウイに苦笑して、俺はそうからかうように聞いた。

「そう。……会えないかな」

  やはり思っていた通りの答えが返ってきて、俺は再び苦笑した。

「さあね。結構忙しいからなぁ、旦那は」
「そうか……。でも、まぁ、これからの楽しみにしておくよ」
「お、言ったな。じゃあ俺は、お前がとっとと昇給するのを待ってるよ」
「……でも、ザイはいいよな」
「なにが」
「だってさ、英雄クオンと一緒に戦えるんだろ?」
「あ、うん。……まあ、ね」

  問われて言葉を濁したのは、一緒に任務に赴いても大抵はクオンが一人で全てを片付けてしまうためで、俺は少しも活躍していないからだ。
  鍛錬は一日たりとも欠かしたことはないが、それでも潜在的で先天的な差が、俺とクオンの間にはあるようだった。
  手を伸ばしても、届かない。
  全力で走っても、追いつけない。
  クオンの底無しの能力に、凡人の俺は自分の卑小さを思い知るばかりだ。

「……絶対、いつかクオンさんと一緒の隊になってやる」
「……ま、頑張れよー」

  ユウイの決意は、怖いくらい一直線で、俺自身はもう擦り切れてなくなってしまった純粋な意思の輝きが、眩しいと思ってしまった。