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ディストアレンジ:08
 

「それでさー、ユウイが」
「……最近お前はそいつのことばかりだな」

  俺の話を遮るようにしてクオンがそんなことをいった。相変わらずの無表情の中に、微かに見えるうんざりした表情を見て、俺はクオンが拗ねているのだと勝手に判断した。

「……何、旦那。拗ねてんの?」
「……馬鹿が」
「うっわ、ひでぇ!」

  クオンはそう言うと鼻で馬鹿にしたように笑ったが、ふい、と逸らした横顔には図星だと薄っすら書かれてるように見えた。そして俺は、それ以上は突っ込まずにおどけてこの話を終わりにする。
  拗ねているクオンに限らないが、微妙に感情を漂わせるクオンは、とても人間らしい。
  俺の勝手な思い込みがクオンを余程人間らしくさせていて、実際はどうだかわからないのに俺はそんなクオンに安心していた。
  今では、以前のような鉄仮面のクオンは稀に見るほどしかいない。
  そうさせたのが俺自身だと思うと、俺のくだらない虚栄心をくすぐり、酷く愉快な気分にさせた。
  そして、俺はそんな気分になると、いつも決まっておどけた様に無邪気にはしゃいでしまうのだ。

「ところでさ、次の作戦なんだけど」

  俺たちは切り替えが早い。
  一秒前までふざけてからかい合っていたとしても、その次の瞬間には仕事の話に入ることができる。例えば今ここが戦場だったならば、すぐに戦闘体制に入ることができる。
  それが、兵士として訓練された結果だ。

「ああ、アレか。……全く、ヤツらもしつこいものだな……」
「ホント、同感。いい加減、休戦でも停戦でも降伏でもしろっての」

  俺たちは今、俺達が所属するターイナ社に敵対して軍事行動を取っているユノクト社と、世界の覇権を巡って戦争を行っている。もう13年近くになるだろうか。
  互いの力が拮抗して、なかなか決着がつかず長引いているのだという。
  ただ、この戦争ももうすぐ終わるだろう。
  戦況を劇的に変えうる力を持った『英雄クオン』が現れてから、徐々にだが、戦況はターイナ社有利に傾いてるからだ。
  戦争が終わったら、などということはまだ考えない。
  いつ終わるともわからない戦争について考えることは、俺の仕事ではないからだ。

「で、次の作戦は【コード・1067】で行くんだよな?」
「そうだな……。だが私は【2089】の方が無駄がないと思うのだが」
「え、【2089】? うーん、それは考えつかなかった……。うん、おけおけ。確かにそっちの方がいいかもな」
「では次の作戦は【コード・2089】に準じて行う」
「りょーかいっ。で、今夜の飯、一緒に食わねぇ?」
「……また金欠なのか?」
「い、いや、ちがっ! ……で、どうなのさ」
「……まぁ、いいだろう。それで、ドコへ行く?」
「さーすが、旦那っ! んーとな、最近できた上手い飯屋があるんだけど……」

  スイッチが入ったら、すぐに切り替わる。それでもふざけあって無駄口を叩くくらいの余裕は残しておく。
  それが、クラスSになる秘訣だ。……もちろん、冗談だが。